日本防菌防黴学会

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
~防菌防黴の観点から~

  • はじめに
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  • 渡部 一仁(摂南大学名誉教授 日本防菌防黴学会編集委員長)
  • 1. 都市災害としてのCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)とその他のパンデミック
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  • 篠田純男(岡山大学インド感染症共同研究センター)
  • 日本での新型コロナウイルス感染症・COVID-19は、当初は北海道での流行の後、首都圏に移り、感染者の半数を東京、神奈川、埼玉、千葉の4都県で占めており、阪神間、愛知、福岡なども多い。しかし、その前に収束した季節性インフルエンザでは、大都市圏集中の傾向は見られず、過密都市が新たな感染症に弱いことを示している。同様なことは、世界でも見られ、当初は中国で発生したCOVID-19がヨーロッパ、さらに米国へと拡がり、G7の先進国では、いずれも多数の感染者が発生している。幸い、日本は例外的に感染者数が少ないが。一方で、一般的には感染症が多いとされている途上国の多くは、今のところは、感染者が低く抑えられている。今後どのようになるか不明であるが。
    インフルエンザでは、季節性インフルエンザにより多数のかんじゃと死者を出しているが、毎年のことなので、あまり問題にされていない。2009年の新型インフルエンザや1918年スペイン風邪なども忘れ去られている。人類は、これまでもペスト、天然痘、麻疹など多くのパンデミックを経験しているが、今回のCOVID-19パンデミックにより、改めて感染症の問題点を認識しなければならない。
  • 2. 新型コロナウイルスの基礎知識,集団予防および生存性・不活化
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  • 野田 衛(麻布大学)
  • 2019年12月以降の中国の武漢市での集団感染に端を発した新型コロナウイルス感染症はその後急速に全世界に拡大し,WHOは3月11日にパンデミックを宣言し,各国に感染拡大防止策の強化を求めた。感染拡大防止策として各国でととられた社会的隔離政策は感染拡大防止策として有効である一方,社会的,経済的な損失も大きい。一方,マスク着用,手洗い,環境消毒を中心とする個人の感染予防の徹底は集団としての感染拡大防止に繋がる(集団予防)。政府が求めている「新しい生活様式」は,個人の予防対策を,より徹底し,社会のシステムとして実施することに他ならない。個人個人が有効な感染予防の習慣を身に付けるためには,新型コロナウイルスの感染の特徴,感染様式,環境での生存性,不活化効果などを理解することが重要である。
  • 3. ウイルス感染症の診断と検査方法
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  • 加瀬哲男(大阪市立大学大学院医学研究科 公衆衛生学(兼)感染症科学研究センター)
  • 感染症診断における微生物検査には、病原微生物が存在する臓器・部位の検体を採取すること、病原微生物が存在する病期に採取すること、診断あるいは治療方針の決定に際して最も適した検査方法を選択することが重要である。同様に抗体検査にしても、抗体が出現してきている時期に採血することと、検出された抗体の特性を知る必要がある。陽性の検査結果は、比較的その解釈が容易であるが、その感染症を疑って陰性結果を得た場合は、その解釈にはいろいろなことが想定できる。真に陰性であるという以外に、検体採取部位と検体採取時期に齟齬があり、他の検査機会があれば陽性であったかもしれないこと、検体の保管・保存あるいは検査手技等に問題があり偽陰性が生じたことなどが考えられる。たとえ微生物検査が陰性であっても疫学的リンクと症状から確定診断できることもある。本稿では、感染症診断においても、明確な検査目的が必要であることを述べてみたい。
  • 4. インフルエンザの予防とマスクの感染予防効果
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  • 小林寅喆(東邦大学看護学部 感染制御学)
  • インフルエンザは,一般的には冬に流行するインフルエンザウイルスによる感染症である。感染経路は主に飛沫感染と接触感染であり,感染対策はウイルスを排出する可能性がある感染者が飛沫を拡散させないためにマスクを着用する飛沫感染対策と,ヒトの手や環境に付着しているウイルスが手指を介して体内への侵入を防ぐための手指消毒,手洗いの接触感染対策である。マスクはほこりや花粉などの粒子が体内に侵入しないように用いるガーゼマスクと主に医療現場で用いられる不織布のサージカルマスクに分類され,感染対策としてのマスクは会話や咳,くしゃみなどから発生する飛沫を外に出さないよう,マスクで被い限りなく飛散させないようにすることが目的である。また,麻疹や結核など空気感染対策にはN95マスクを使用する。ただし,使用にあたっては相当なトレーニング(チェック)が必要である。マスクは基本的には,医療現場の特殊な環境を除き,感染者が着用するものでありマスクの感染予防効果を過信してはならない。
  • 5. 新型コロナウイルスに有効な消毒剤/除菌剤
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  • 原田 裕(サラヤ㈱ バイオケミカル研究所 サラヤ微生物研究センター)
  • 新型コロナウイルスに対して、エタノールや次亜塩素酸ナトリウムが有効であるといわれているが、最近ではその他除菌剤等も有効であると相次いで報告されている。ここでは、SARSコロナウイルスやインフルエンザウイルスに対する過去のエビデンス、および新型コロナウイルスに対する最新のエビデンスをまとめ、新型コロナウイルスに対して有効と推定される消毒剤/除菌剤について述べる。
  • 6. 新型コロナウイルスパンデミック期における感染管理と看護
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  • 伊藤道子(北里大学看護学部)
    林 俊治(北里大学医学部)
  • 新型コロナウイルス感染症によるパンデミックは看護の現場に大きな影響を与えた。そこで、このパンデミック期に発生した諸問題およびそれらの問題を解決するために行われた工夫について、感染管理認定看護師と看護管理者を対象に、聞き取り調査を行った。新型コロナウイルス感染症の診療を行うか否かにかかわらず、多くの病院で「3密の回避」「マスクの着用」「物品不足」が看護の現場に様々な影響を与えていた。また、「労務管理上の問題」が発生した病院も少なくなかった。帰国者・接触者外来を引き受けた病院では、医療従事者自身の感染を防ぐために、「業務の分担」「検体採取(特に小児からの検体採取)」「患者の院内滞在時間の短縮」などについて様々な工夫が行われていた。また、「外国籍患者の対応」や「行政への対応」に苦労した病院もあった。
  • 7. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)地域感染期における看護の役割と看護体制のあり方の課題
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  • 住田千鶴子(稲沢市民病院 看護局)
  • 2020年3月6日に1人目の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の陽性患者を受け入れた。46床の一般病棟を感染症患者専用に切り替え,個人防護用具の着脱,手指衛生など感染対策の強化に加え,疑い患者を一般病棟に入れないトリアージ体制,診療科と看護師の配置変換,一般診療の縮小と病院管理者たちは,日々意思決定を行った。 5月12日までの68日間,院内感染を発生することなく,陽性患者18名(延べ入院日数259日)を受け入れた。新型コロナウイルスは,世界中を急速なスピードで広がった。現場の看護師は,ウイルスの感染経路や感染力などに関する十分な情報がないまま標準予防策と疾患に応じた感染経路別予防策の遵守を頼りに未知のウイルスの対応をせざるをえなかった。今回の新型コロナウイルス感染症の対応から,私たちは,感染に対する不安だけでなく,看護業務の急激な増大と身体的,精神的な負荷の及ぼす危険性を学んだ。看護局の責任者として,これから起こりうる地域感染拡大に備えた組織の体制整備を進めたい。
  • 8. 医療従事者における感染制御,特に感染防護服の現状における問題点からの 研究成果をふまえた提言―将来への感染防護服の改良に向けて―
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  • 森本美智子(岡山県立大学保健福祉学部)
    内田 幸子(高崎健康福祉大学健康福祉学部)
    田辺 文憲(山梨大学大学院総合研究部)
    荒川 創一 (三田市民病院)
  • 新型コロナウイルス感染症(Coronavirus disease 2019,COVID-19)の患者ケアに携わる医療従事者は労働環境や感染防護服の不足により,全世界でその多くがCOVID-19に罹患する危険性を有していると指摘されている。新型コロナウイルス感染症患者の診療・ケア業務に従事するには個人防護具の着用が必須である。本稿では著者らが進めてきた感染防護服(フルカバー)の研究成果をまとめた。その要点は以下;①看護師へのインタビュー調査を行い,感染防護服による個人防護服の選択判断,設備不備,脱衣の教育訓練,汚染部特定の問題,素材の問題が挙げられた。②感染防護服の運動機能性,温熱的快適性については,看護動作時の運動機能性の不備や暑さ・蒸し暑さによる不快感動作時の心拍数増加が課題となった。③個人防護服表面へのMRSAやレンチウイルスの付着性の実験では,クラス6の感染防護服で,どちらの病原体も最も多く付着することがわかった。④看護動作時の汚染部位の特定実験では,胸腹部の汚染が多く,脱衣時の教育訓練の必要性が重要な課題に挙げられた。感染防護服の問題点を明確化したことにより,将来への改良に向けて解決策を提言した。
  • 9. 食品産業界におけるCOVID-19への対応
    -暫定ガイダンス-
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  • 泉 秀実(近畿大学 生物理工学部)
  • 世界中で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が原因のパンデミックに直面して、WHO、FAO、FDA、FSAなどの機関からCOVID-19に対する食品事業用の安全性ガイダンスやドキュメントが発表されている。しかしながら、日本の食品産業界の関係者にとって、COVID-19対策として一貫したアプローチをするべきプロトコルは示されていない。そこで、内閣府の研究プロジェクトの一環として、世界の主だった衛生関連機関から発表されたガイダンスやドキュメントを基に、日本に適応した暫定ガイダンスを作成した。ガイダンスの内容として、COVID-19に対する基本的対策、フードチェーンの川上から川下におけるCOVID-19対策、並びに、COVID-19対策のための食品事業者および従業員の重要管理ポイントとチェックリストについて取り纏めたので紹介する。
  • 10. 学会として期待される活動
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  • 篠田純男(岡山大学インド感染症共同研究センター)
  • 防菌防黴学会は、その名だけを見ると細菌、真菌、糸状菌等の災害を防ぐことを目的としているような印象であるが、会則には、衣食住に関連する微生物およびそれに由来する物質を制御することが書かれており、ウイルスも含めた微生物災害全般の制御を目的としている。そして、他の学会以上に、民間とのつながりが重要であり、COVID-19問題も学会誌での論文執筆、年次大会等での講演のみならず、一般社会への啓蒙活動が重要である。日本での感染者数の50%は首都圏の4都県に集中しており、都市災害の様相を呈しており、三蜜状態を避けることの重要性が言われているが、要は一般の人達の認識不足である。ウイルスとはどのようなものか、マスクについての正しい認識など、このような呼吸器感染症についての啓蒙活動を行うことも、当学会としての活動として重要である。