常温流通する濃厚流動食において,出荷前試験の55℃の恒温試験でフラットサワー様変敗が発生した。変敗原因菌7株を分離し,同定したところ,すべてG. stearothermophilusであった。また,本菌種芽胞の最低発育温度を調査した結果,すべての供試菌株において,42℃以上で発育が見られ,2株では36℃付近まで発育可能であった。そのため,常温流通する流動食では,特に夏場において変敗のリスクがあると考えられた。また,流動食中での本菌種芽胞のD121℃値が3.1分であり,殺滅には121℃,15.5分相当の加熱殺菌が必要であった。しかし,流動食への厳しい加熱処理は,乳化状態の不安定化等を招く恐れがあるため,流動食における変敗防止には,静菌効果のある添加物を使用し,加熱殺菌条件を緩和させる必要があると思われた。そこで,乳化剤であるショ糖脂肪酸エステルP-1670を添加し,加熱殺菌条件を緩和させることを試みた。その結果,2,000ppmの添加では効果がなく,3,000ppmではD121℃値が2/3低下し,4,000ppmでは発育がほぼ阻止された。しかし,P-1670を2,000ppm添加すると,脂質の沈殿がわずかに生じ,3,000ppm以上の添加では脂質の分離が見られた。したがって,流動食に静菌目的の乳化剤を添加する場合には,複数種の乳化剤の併用など,乳化状態の不安定化を防ぐような検討をした上で,使用すべきと考えられた。