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日本防菌防黴学会誌

Vol.41,No.5 (2013)

表題:
文化財の生物被害の現状と対策[7] アンコール遺跡の微生物被害
著者:
片山葉子(東京農工大学大学院農学研究院)
掲載:
日本防菌防黴学会誌,Vol.41,No.5,pp.255-261(2013)

カンボジア王国のアンコール遺跡はクメール王朝時代の石造建造物であるが,部材の砂岩の剥離劣化や雨水の浸透や流下に伴う着生微生物の発生等,様々な問題が発生している。酸性物質は岩石の鉱物を溶出させる作用があるため,アンコール・ワットやバイヨン寺院で劣化の見られる部位について関連する微生物について調べた。その結果,単体硫黄をエネルギー源とする無機塩培地で硫黄酸化により生育するMycobacterium属の細菌や,硫黄酸化とは無縁と考えられて来たFusariumPenicillium属などの真菌類からも複数の菌株が分離され,多様な硫黄酸化微生物が石材上に生息することが明らかとなった。石材のゆるみや亀裂などによる雨水はバイヨン寺院の回廊壁面に多彩なバイオフィルムを形成させるが,そこには紫外線や乾燥といった熱帯特有の気候に適合した細菌群から構成される独特の生物叢が存在することが示された。

Key words:
Angkor monuments(アンコール遺跡)/Biodeterioration(生物劣化)/Acid-producing microbes(酸生成微生物)/Sandstone(砂岩)/Biofilm(バイオフィルム).