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日本防菌防黴学会誌

Vol.46,No.12 (2018)

表題:
新興・再興感染症[12]
マラリア
著者:
狩野繁之(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 研究所 熱帯医学・マラリア研究部 部長)
掲載:
日本防菌防黴学会誌,Vol.46,No.12,pp.547−550(2018)

WHOの報告によれば,2017年の世界のマラリア罹患者数は2億1千600万人,死亡者数は44万5千人であった。そしてWHOの新たなマラリア対策目標は,世界の罹患者数・死亡率を(2015年に比べて)2020年には40%,2025年には75%,2030年には90%削減するというものである。ところが,世界のマラリアの流行が着実に再興してきており,その最も大きな要因は薬剤耐性マラリアの出現と拡散である。アルテミシニンとその誘導体を用いた混合療法の有効性が世界のマラリア対策を成功裡に導きつつあるが,その耐性もすでに報告され始めてきた。一方,アカゲザルを自然宿主とするマラリア原虫の一種“Plasmodium knowlesi”のヒト感染例がアジア太平洋地域に拡散していることも,疫学上の新たな問題である。
さて,近年の日本国内輸入マラリア報告数は50例前後であり,減少の傾向があるが,2020年に東京で開催されるオリンピック/パラリンピックの時には,インバウンドの渡航者数は4,000万人にも及ぶと推定され,マラリアの輸入例の増加が現実的な脅威として考慮される。しかしながら,日本国内では,抗マラリア薬の配備がほぼ整い,早期に診断がつけば治療法の選択に幅が出てきた。それどころか,有効な予防薬も渡航前から処方できるようになった。
わが国は世界のマラリア対策戦略に長く貢献してきている。今後は2015年に採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成を加速化するために,さらに世界のマラリア対策でリーダーシップを発揮する必要がある。

Key words:
マラリア/アルテミシニン/RBM/GTSM/SDGs.